ぼやき

これ自分しか経験していないと思う #1

numa

「えへへ、もうけたわい」そう言うと老爺はおばあさんを連れて市役所へ出生届を出しに行きました。

高校3年生の春、僕は両腕を粉砕骨折して入院していた。理由は単純で、女子の前でいいとこを見せようとして自転車に乗ったまま工事中の用地から飛び降りたのだ。

気づけば僕は3月のコンクリートの上で流れる雲を眺めながら救急車の到着を待っていた。頭を打たなかったのが不幸中の幸いだが、救急隊員からは僕の愚行に「頭でも打ってたんですか?」と問われる始末だった。

結果は全治3ヶ月の大怪我。ブリッジ手術という処置を両腕に受け、さながら腕からブレードを生やして戦う敵キャラみたいなビジュアルになった。

その手術は大層珍しい術式らしく、連日連夜看護師たちが物見遊山に僕の病室を訪ねてきた。

鎮痛剤が切れて痛みに悶えている僕に、看護師たちは「わー!私10年働いてブリッジって初めて見た!しかも両腕!?」と興奮を隠す様子もない。

僕はちょうど年上のお姉さんにエッチなことをしてもらうことに憧れる多感なティーンエイジャーだったので、「こんな腕だと溜まっちゃうでしょ…?」とタイトなナース服の看護師からビロードの手袋を活用した施術を受けることに期待した。しかし現実とは非情なものであった。どの看護師も目をハートにしてやってきては僕の期待とは裏腹に包帯で巻かれた腕を一瞥して仕事に戻っていく。

こんなことだから少子高齢化は止まらないし、ブラジルの熱帯雨林は日増しに削り取られているんだと世界を呪った。

そんなある日、僕が自転車で事故を起こすところを録画していた友人たちが「動画の編集が終わった」という名目で僕のお見舞いにきた。彼らが録画していてくれたので、救急隊員への事情の説明が15秒で終わったのだった。

彼らがお見舞いの品として持ってきたのは「キウイスクープ」という製品。キウイを美味しく食べられるだけでなくアボカドの種も取り除ける優れものなんだとか。

 

ふざけるな。

今の僕のどこにキウイを握る腕が残っているというんだ。どうして剥いたフルーツでもなく、せめて剥いていないフルーツでもなく、フルーツを剥く器具を買ってきたんだ。元気の出し方が迂遠すぎる。お前らはラーメンが食いたくなったらミミズとダンゴムシを腐葉土に放つところから始めるのかと問い詰めた。

それにアボカドの種なんて半身にして包丁を突き立てれば一発で取れるじゃないか。どうしてわざわざ洗い物を増やすようなことをするんだ。

 

長い入院生活が終わって久々の家に帰った。台所でよく熟れたアボカドを半身に割り、キウイスクープでアボカドの種の周りの果肉をえぐる。種は頑固にこびりついて外れない。力任せに器具を押し込んだら果肉が飛び散って床を汚した。

 

よく会社で上層部が新しいツールに興味を持ったばかりに、若手に目的不在のツール活用術作成タスクが降りてくることがある。

僕が社会人となった今、新ツールがタスクを呼び、タスクが問題を引き起こすという現象に触れるたびにこのアボカド事件を思い出す。

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「えへへ、もうけたわい」そう言うと老爺はおばあさんを連れて市役所へ出生届を出しに行きました。

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